島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(3)

 

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ジュネーブのお土産(パレデナシオン)

12月19日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第4条 リスクマネージメント

(1)第3条(1)にある注意義務を企業が遵守するために、企業に「適切」で「効果的」なリスクマネージメントを整備する義務を課しています。

(2)「効果的」とは、「もし企業がサプライチェーンにおいて人権や環境に関するリスクまたは義務違反を発生させていたりその発生に寄与していたりする場合に、人権と環境に関するリスクを認識し最小限にできる、人権または環境に関する義務違反を防止または終了させることができる、またはその程度を最小限にできる措置」だと定めています。

(3)企業が自社内に、リスクマネージメントを監督する責任者を置くことを義務付けています。また経営陣は、定期的に(少なくとも1年に1回)、その責任者の業務について報告を受けることも義務付けています。

(4)リスクマネージメントの整備や運用にあたって、企業が適切にその利益を考慮しなければならない人たちを列挙しています。自社の従業員、サプライチェーン内の諸企業の従業員、そしてその他にも、自社の経済活動やサプライチェーン内の諸企業の経済活動に関連して、この法律で保護されるべき法的地位に直接的な関係を有する可能性のある人々ということです。

 

リスクマネージメントの制度設計の際に、実務上は、上記の(4)の利益を考慮する必要がある人々の外延が問題になりそうです。ここについて、連邦議会に提出された政府の法案説明資料が説明している内容を考えます。44ページです。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

 

Zu den betroffenen Personen gehören insbesondere Beschäftigte sowie Personen, die in enger räumlicher Nähe zur unternehmerischen Tätigkeit stehen, wie beispielsweise Anwohnende oder Nutzer von Nachbargrundstücken einer Produktionsstätte. 

(関係を有する人には、従業員の他には、当該企業の活動に空間的に近い場所に居る人である。例えば、製造場所の近隣の土地に居住しているかその土地を利用している人である。)

 

Im Sinne eines effektiven Menschenrechtsschutzes ist der Begriff des Beschäftigten weit zu verstehen. Erfasst sind auch Selbstständige, die einem Unternehmen zuliefern und informell Beschäftigte, zum Beispiel Personen, die nach den jeweils geltenden Gesetzen in Schwarzarbeit tätig sind, die Arbeitsverboten unterliegen oder Scheinselbstständige sind. 

(効果的な人権保護という意味では、従業員の定義も広くとらえなければならない。当該企業の業務を下請けしている独立自営業者、正式な雇用契約がない労働者(Schwarzarbeit)や労働禁止のため本来は働いてはいけない労働者(筆者注:労働禁止とは例えばドイツ難民法第61条難民認定期間中の労働禁止)、偽装雇用の労働者などのインフォーマルな従業員も含まれる。)

 

Absatz 4 benennt weiterhin Personen, die von den wirtschaftlichen Aktivitäten der unter den Anwendungsbereich fallenden Unternehmen oder ihrer Zulieferer unmittelbar betroffen sein können. Darunter können etwa Anwohnerinnen und Anwohner in der Nähe des Unternehmensstandorts fallen. Geschützt werden sollen auch juristische Personen, Personenvereinigungen oder Gremien, sofern sie vom persönlichen Schutzbereich der Menschenrechte gemäß § 2 Absatz 1 erfasst sind, insbesondere Gewerkschaften. 

(第4条(4)では、それ以上に広い範囲の人々を含む。この法律の適用領域の範囲内にある企業やそのサプライヤーによる経済活動に直接的な関係がある可能性がある人々である。例えば、企業の活動場所の近隣住民などだ。対象になるのは自然人だけではなく、第2条(1)がいう人権の保護の範囲に入るのであれば、法人、団体、委員会、そして特に労働組合である。)

 

また、利益を考慮するとはどのような方法で達成するのかも、説明されています。

Dies kann in Form einer direkten Konsultation mit (möglicherweise) von Rechtsverletzungen betroffenen Personen oder mit einer berechtigten Interessenvertretung erfolgen. Die Konsultation betroffener Personen oder ihrer
Interessenvertretung kann dabei ein wichtiges partizipatives Mittel sein, um Informationen über ihre Interessen und menschenrechtliche Situation zu erlangen.

(このことは、(可能であれば)権利侵害に関係する人や権限のある代表者との直接の協議という形態により、成し遂げられる。関係する人または代表者との協議は、彼らの利益や人権に関する状況についての情報を彼らがが入手するためには、重要な関与の方法となりうる。)

 

筆者がこれを読んで思い起こしたのは、日本の労働組合法における「団体交渉の範囲」「団交応諾義務」です。ある企業の経済活動により(良くない)影響を受けた場合、これを協議、回復するための方法の一つに、日本では労働組合による当該企業との団体交渉というものが考えられます。

www.mhlw.go.jp

住友ゴム事件では、退職した従業員が退職後に、当時の業務で使用していた石綿が原因で中皮腫を発症したため、労働組合が、中皮腫を発症した元従業員X1、X2と死亡した元従業員X3の遺族X4に対して、X1~3が在職中の同社の石綿使用実態を明らかにすることなどを求めて、団体交渉に応じるよう求めました。

阪高裁はX1、X2は「使用者が雇用する労働者」だとして同社に団交応諾義務があることを認めましたが、X4については違うとして団交応諾義務を否定しました。

日本ではその他、企業に融資している銀行や投資ファンドが団体交渉の相手方になるか、フランチャイザーフランチャイジーと団体交渉するべきかなど、労働組合法がそもそも想定していなかった問題も団体交渉制度に持ち込まれるようになっています。

ドイツのLkSGは、このような観点からも、今後研究対象としていくことも考えられます。日本の法律の解釈や新しい政策を策定する際に、何かしらの示唆を得ることができるでしょう。

 

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(2)

11月23日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第2節 注意義務

第3条 注意義務

(1)対象企業に課される、人権と環境に関する注意義務の内容が列挙されています。対象企業が、「人権または環境に関するリスクを予防する、または最小限にする、または人権や環境に関する義務違反を終わらせるという目標」をもって「適切なやり方で(in angemeesener Weise)」注意しなければならない義務だということです。具体的には、条文の文章を直訳すると下記の事項になります。

1.リスクマネージメントの整備(詳しくは第4条(1))

2.対象企業内での責任者の決定(第4条(3))

3.定期的なリスク分析の実施(第5条)

4.方針を明確にし公表すること(第6条(2))

5.対象企業の活動範囲と直接的なサプライヤーに対する予防措置の確立(対象企業自身については第6条(1)と(3)、直接的なサプライヤーについては同条(4))。

6.是正措置を講じること(第7条(1)~(3))

7.苦情処理手続きの確立(第8条)

8.間接的なサプライヤーに関連するリスクについての注意義務を実行すること(第9条)

9.文書化(第10条(1))と報告書の作成・公表(同条(2))

(2)次は対象企業が注意義務を「適切なやり方で」実行しているか判断するための基準が列挙されています。

1.当該企業の行為能力の性質と範囲

2.人権または環境に関するリスク、もしくは人権または環境に関する義務違反を直接引き起こしているものに対する当該企業の影響力

3.人権または環境に関する、予想される義務違反の特徴、義務違反の回復可能性、義務違反の可能性

4.人権または環境に関するリスク、または人権または環境に関する義務違反の発生原因に対する、当該企業の寄与の様子

(3)この条文では、この法律の義務違反は私法上の義務違反の原因にはならないこと、この法律が成立したからといって、これまでの私法上の責任体系に影響は与えないことが明言されています。

 

さて、法律上は、この第3条に定められた注意義務の意味が問題になってきます。立法者はどのように考えているのかについて、連邦議会に提出された政府資料に記載されている立法理由・各条解説をみていきます。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

このPDFの41ページに、立法者が考える第3条(1)の意味が説明されています。

Die Sorgfaltspflichten begründen eine Bemühens- und keine Erfolgspflicht. Unternehmen müssen nicht garantieren, dass in ihren Lieferketten keine Menschenrechte oder umweltbezogene Pflichten verletzt werden. Sie müssen vielmehr nachweisen können, dass sie die in den §§ 4 bis 10 näher beschriebenen Sorgfaltspflichten umgesetzt haben, die vor dem Hintergrund ihres individuellen Kontextes machbar und angemessen sind. 

(本法における注意義務は、努力をする義務(Bemühenspflicht)であり、成功させる義務(Erfolgspflicht)ではない。企業は自身のサプライチェーンにおいて人権や環境に関する義務違反が生じないことを保証しなけらばならないわけではない。そうではなくて、企業は本法の第4条から第10条に詳細に定められている注意義務を、自身のおかれている状況に応じて実行可能かつ適切な状態にすることで、実現していることを証明できるようにしなければならないということだ。)

 

この文章を読む限りでは、サプライチェーンデューディリジェンス法は、この法律に定められた注意義務を企業に履行させる、注意義務違反には罰則または損害賠償、義務違反の行為の差し止め請求などを用意する、というものではなく、手続きを定めそれを行政が監視・コントロールすることで、間接的に、注意義務が履行されるように持っていくというスタイルを採用していると考えられるでしょう。

 

【ドイツ】連立協定書:新政権の国際人権政策

次は新政権の、国際的な人権問題に対するスタンスや政策概要についてみていきます。

連立協定書の130ページ(PDF131枚目)からが「Ⅶ. 欧州と世界に対するドイツの責任」で、人権については146ページ(147枚目)にあります。

https://www.spd.de/fileadmin/Dokumente/Koalitionsvertrag/Koalitionsvertrag_2021-2025.pdf

 

Menschenrechtspolitik umfasst alle Aspekte staatlichen Handelns auf internationaler wie auch innenpolitischer Ebene. In einem globalen Umfeld, in dem auch von zentralen Akteuren die universelle Gültigkeit der Menschenrechte regelmäßig in Frage gestellt wird, wollen wir sie gemeinsam mit unseren Partnern verteidigen und für sie werben. Das Amt des/der Beauftragten der Bundesregierung für Menschenrechtspolitik und Humanitäre Hilfe werden wir aufwerten und mit mehr Personal ausstatten. Wir werden nationale Menschenrechtsinstitutionen, wie u. a. das Deutsche Institut für Menschenrechte und die Nationale Stelle zur Verhütung von Folter finanziell und personell besser ausstatten. Wir werden die Bekämpfung von Menschenhandel ressortübergreifend koordinieren, die Unterstützungssysteme für Betroffene verbessern und ihre Rechte stärken. Im Ausland aus politischen Gründen inhaftierten Deutschen werden wir auch weiterhin unbürokratisch helfen und hierfür einen Fonds einrichten. 

(人権政策は、国内における局面と同様、国外における局面にあっても、国家が取り扱う事項のすべての点に関わるものである。人権の国境を越えた有効性に対して定期的に疑問が呈される国際的な環境においては、我々はパートナーとともに人権を擁護し、問題提起する。我々は、人権政策と人道支援のための政府内の担当部局を重視し、人員を増強する。我々は、ドイツ人権研究所(Deutsche Institut für Menschenrechte)や拷問防止のための国の部局(Nationale Stelle zur Verhütung von Folter)のような国の人権擁護機関の財源を充実強化し、人員を増強する。我々はトラフィッキング(人身取引)撲滅に対しては部局の縦割りではない調整を行い。被害者支援システムを改善し、被害者の権利を強化する。国外においては、政治的理由で投獄されているドイツ人を引き続き複雑な手続きなしに手助けし、そのための基金を設立する。)

 

Zivilgesellschaften – insbesondere Journalistinnen, Aktivisten, Wissenschaftlerinnen und andere Menschenrechtsverteidiger – sind unverzichtbar für den Aufbau und Erhalt funktionierender Gemeinwesen. Wir verpflichten uns, diese Menschen und ihre Arbeit in besonderer Weise zu stärken und zu schützen, auch bei grenzüberschreitender Verfolgung. In diesem Zusammenhang wollen wir die Aufnahme von hochgefährdeten Menschen vereinfachen und einen sicheren Antragsweg gewährleisten. Zusätzlich werden wir Förder- und Schutzprogramme, u. a. die Elisabeth-Selbert-Initiative, ausbauen und längerfristig gestalten. An geeigneten Auslandsvertretungen werden wir weitere Stellen für Menschenrechtsarbeit schaffen. 

市民社会 - 特にジャーナリスト、活動家、学識経験者、その他の人権擁護活動家 - は、公共制度の機能の構築と維持にとって不可欠である。我々は、こういった人材と彼らの活動を特別な方法で強化し、保護することを約束し、これは国境を越えた迫害の場合であっても同じである。このようなことを総合して、我々は危険度の高い状態に置かれている人たちの受け入れを容易にし、安全な申請方法を保証する。加えて、エリザベス・セルバート・イニシアチブ(Elisabeth-Selbert-Initiative)のような支援・保護プログラムを拡充し、長期的に展開していく。我々は、適当な国外の代行者に人権に関する業務を執り行うポジションを与える。)

 

Wir unterstützen den Beitritt der EU zur Europäischen Menschenrechtskonvention. Den Europäischen Gerichtshof für Menschenrechte werden wir stärken und die Umsetzung seiner Urteile in allen Mitgliedsländern mit Nachdruck einfordern. Der EU-sanktionsmechanismus muss konsequent genutzt und besser mit unseren internationalen Partnern abgestimmt werden. Wir setzen uns bei den Mitgliedern des Europarats verstärkt für Ratifizierung und Umsetzung der Istanbul-Konvention ein. 

(我々はEUが「人権と基本的自由の保護のための条約」に加盟することを支援する。我々は欧州人権裁判所を強化し、すべての欧州評議会加盟国が同裁判所の判決を執行するよう、強く求める。EUの制裁メカニズムが断固として使用され、国際的なパートナーとともに今以上に調和して運用されるようになるべきである。欧州評議会加盟国とともに、イスタンブール条約(女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約)の批准と執行に取り組む。)

 

Wir werden die Arbeit des VN-Menschenrechtsrats aktiv mitgestalten, das VN-Hochkommissariat für Menschenrechte stärken. Die Arbeit der VN-Vertragsorgane und Sonderberichterstatterinnen und -erstatter wollen wir stärken sowie die Ratifizierung weiterer Menschenrechtskonventionen anstreben. Das Zusatzprotokoll zum Sozialpakt der VN werden wir ratifizieren. Wir wollen die Rechte von Minderheiten auf internationaler Ebene und insbesondere innerhalb der EU stärken. Orientiert an den Yogyakarta-Prinzipien werden wir uns in den VN für eine Konvention für LSBTI-Rechte einsetzen. Wir wollen den Schutz der Menschenrechte im digitalen Zeitalter stärken und hierfür die Internetfreiheit und digitale Menschenrechte zu außenpolitischen Schwerpunkten machen. Die Initiative zum Recht auf Privatheit unterstützen wir. Wir setzen uns auf VN-Ebene für die Konkretisierung und Durchsetzung des Rechts auf saubere Umwelt ein.

(我々は国連人権理事会と積極的に協働し、人権高等弁務官事務所を強化する。我々は国連諸機関を強化するとともに、さらなる人権関係条約の批准を求める。我々は「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」の選択議定書を批准する。我々は国際的なレベルでの少数派の権利、とくにEU域内での少数派の権利を強化する。「ジョグジャカルタ原則」に基づき、我々は国連の中でLGBTIの権利のための条約に向けて取り組む。我々はデジタル時代の人権保護を強化し、外交政策での重点課題とする。我々はプライバシーに関する権利に向けたイニシアチブを支援する。我々はクリーンな環境に関する権利の確立と貫徹に向けた国連レベルでの取り組みを開始する。)

 

Straflosigkeit bei Menschenrechtsverletzungen muss weltweit beendet werden. Deshalb engagieren wir uns für die Arbeit des Internationalen Strafgerichtshofes und der Ad-hoc-Tribunale der VN und werden uns für die Weiterentwicklung des humanitären Völkerrechts einsetzen. Wir unterstützen die Einsetzung weiterer VN-geführter Fact-Finding-Missionen sowie die Arbeit von VN Untersuchungs- und Monitoring-Mechanismen, um zukünftige Strafprozesse zu ermöglichen. In Deutschland wollen wir die Kapazitäten bei Verfahren nach dem Völkerstrafgesetzbuch ausbauen. 

(人権侵害に対する制裁がない事態は、世界中で終わらせなければならない。そのため、我々は国際刑事裁判所および特別法廷の業務に積極的に関与し、人道に関する国際法の発展に取り組む。我々は、国連の現地調査団の派遣や国連の調査・監視メカニズムの業務に対して、将来的には制裁手続きを可能にする目的で支援する。ドイツにおいては、我々は国際刑事法典による手続き可能性を拡充する。)

 

Basierend auf den VN-Leitprinzipien Wirtschaft und Menschenrechte setzen wir uns für einen europäischen Aktionsplan Wirtschaft und Menschenrechte ein. Wir werden den nationalen Aktionsplan Wirtschaft und Menschenrechte im Einklang mit dem Lieferkettengesetz überarbeiten. 

(国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、我々は欧州におけるビジネスと人権に関するアクションプランに取り組む。我々はドイツの「ビジネスと人権に関する行動計画」をサプライチェーン法に適合する内容に改定する。)

 

以上の内容を裏側から見ると、今後ビジネス展開の際の重要規範となる「人権」分野のルールの標準化には、ドイツとEUの意向が大きく反映されるようになるということになるでしょう。

 

 

【ドイツ】連立協定書:新政権の対中政策

現在のところ、国際的な人権問題の中心テーマは中国における人権侵害や外交・経済関係になっていますので、まず、この点からみていきます。

連立協定書の130ページ(PDF131枚目)からが「Ⅶ. 欧州と世界に対するドイツの責任」で、対中国政策は157ページ(158枚目)にあります。

https://www.spd.de/fileadmin/Dokumente/Koalitionsvertrag/Koalitionsvertrag_2021-2025.pdf

 

Wir wollen und müssen unsere Beziehungen mit China in den Dimensionen Partnerschaft, Wettbewerb und Systemrivalität gestalten. Auf der Grundlage der Menschenrechte und des geltenden internationalen Rechts suchen wir die Kooperation mit China, wo immer möglich. Wir wollen im zunehmenden Wettbewerb mit China faire Spielregeln. Um in der systemischen Rivalität mit China unsere Werte und Interessen verwirklichen zu können, brauchen wir eine umfassende China-Strategie in Deutschland im Rahmen der gemeinsamen EU-China Politik. Wir wollen die Regierungskonsultationen fortsetzen und stärker europäisch ausgestalten. 

(我々は中国との関係を、パートナーシップ、競争そして体制上のライバルという次元において構築を望み、構築しなければならない。人権という基盤と現行の国際法に基づき、我々は可能な部分において中国との協力を模索する。我々はますます増える中国との競争において、公正なルールを望む。中国との体制上のライバルという関係において我々の価値観と利益を実現させるために、EUの対中国政策の枠内で、ドイツは包括的な中国戦略が必要である。我々は政府間の協議を進め、欧州としてこれを強化していくことを望む。)

 

Wir streben eine enge transatlantische Abstimmung in der China-Politik an und suchen die Zusammenarbeit mit gleichgesinnten Ländern um strategische Abhängigkeiten zu reduzieren. Unsere Erwartung an die chinesische Außenpolitik ist, dass sie eine verantwortungsvolle Rolle für Frieden und Stabilität in ihrer Nachbarschaft spielt. Wir setzen uns dafür ein, dass territoriale Streitigkeiten im südund ostchinesischen Meer auf Basis des internationalen Seerechts beigelegt werden. Eine Veränderung des Status Quo in der Straße von Taiwan darf nur friedlich und im gegenseitigen Einvernehmen erfolgen. Im Rahmen der Ein-China-Politik der EU unterstützen wir die sachbezogene Teilnahme des demokratischen Taiwan in internationalen Organisationen. Wir thematisieren klar Chinas Menschenrechtsverletzungen, besonders in Xinjiang. Dem Prinzip „Ein Land – zwei Systeme“ in Hong Kong muss wieder Geltung verschafft werden. 

(我々は対中国政策について、大西洋横断的な調整を希求し、価値観を共有する国々と戦略的相互依存を減らすために協働する。我々が中国の外交政策に期待するのは、中国の近隣諸国における平和と安定に対して、中国が責任ある役割を果たすことである。我々は、国際海洋法に基づき、中国の南および東側の海域での領有戦略の調停について貢献する。台湾海峡の現状変更は、平和的かつ双方の見解を聴取することのみで解決可能である。EUの一つの中国政策の枠組みの中で、我々は台湾が国際機関に事実上参加することを支持する。我々は中国の人権侵害、とくに新疆におけるものを、明確にテーマとして扱う。香港における「一国二制度」の原則は、再び効力を持たせなければならない。)

 

このように、新疆での人権問題がはっきりとした言葉で取り上げられています。

社会民主党SPD)の選挙公約緑の党選挙公約自由民主党選挙公約のうち、明確に新疆の状況について言及していたのは緑の党の選挙公約(228ページ、下記引用参照)だけでしたので、この部分は緑の党の主張が盛り込まれたということだと思います。

 

China ist Europas Wettbewerber, Partner, systemischer Rivale. Wir verlangen von China ein Ende seiner eklatanten Menschenrechtsverletzungen, etwa in Xinjiang und Tibet und zunehmend auch in Hongkong. 

(中国は欧州の競争相手、パートナー、体制上のライバルである。我々は中国による、例えば新疆とチベット、そして香港での明白な人権侵害を終わらせることを要求する。)

 

サプライチェーンデューディリジェンス法はメルケル政権下で制定され、最近はメルケル政権時代の対中国関係は、下記の記事で「ドイツと中国の近しい関係はメルケル政権の4期16年で拍車がかかった。...(中略)現在、ドイツは自動車や化学メーカーを中心に企業5000社以上が中国に進出し、自動車生産は400万台超と本国を上回る」と指摘されているように、「近すぎだったのでは?」と総括される傾向にあるでしょう。

mainichi.jp

このような時期に制定された法律は、新政権では、制定当初に想定していた解釈や運用より厳しくなることが考えられます。

【ドイツ】社会民主党、緑の党、自由民主党が連立協定書に合意:目次の紹介

ドイツでは9月26日に連邦議会選挙(いわゆる総選挙)が行われましたが、過半数議席を獲得できた政党はありませんでした。ということで、第20選挙期の議席数はこちら。

www.bundestag.de

連立政権樹立を目指し連立協議を行っていた、社会民主党(SPD)緑の党自由民主党(FDP)は、11月24日、共同記者会見を行い連立協定書を発表しました。連立協定書はこちら。

https://www.spd.de/fileadmin/Dokumente/Koalitionsvertrag/Koalitionsvertrag_2021-2025.pdf

タイトルは "  Mehr Fortschritt wagen " で、「一層の前進に挑もう」という感じの意味です。SPDのウィリー・ブラントが1969年に首相になったときに掲げた " Wir wollen mehr Demokratie wagen“ というスローガンが基になっています。サブタイトルは " Bündnis für Freiheit, Gerechtigkeit und Nachhaltigkeit " で、「自由、公正および持続可能性に向けた同盟」です。分量は、表紙も含めて177ページあります。

 

連立協定書の内容を概観するために、今回は目次をみていきます。

 

Ⅰ.  はじめに

Ⅱ. 現代的な国家、デジタル化およびイノベーション

   現代的な国家と民主主義

   デジタル分野のイノベーションとデジタル分野のインフラ

     イノベーション、学界、高等教育と研究

Ⅲ. 社会的・環境的市場経済における気候保護

      経済

   気候と環境の保護

      農業と食料

   モビリティー

   気候、エネルギー、トランスフォーメーション

Ⅳ. 現代的な労働世界における尊重、機会と社会保障

      労働

   社会福祉国家、老齢福祉、基礎保障

   介護と健康

   建設と住宅

Ⅴ. 子供にとっての機会、強い家庭と生涯に渡る最高の教育

      すべての人にとっての機会と教育

   子供、若年者、家庭と高齢者

Ⅵ. 現代的な民主主義における自由と安全、平等と多様性

   国内の安全、市民の権利、司法、 消費者保護、スポーツ

   平等

   多様性

   文化・メディア政策

   都市と地方における良好な生活の関係

Ⅶ. 欧州と世界に対するドイツの責任

     欧州

     統合、移民、難民

  外交、安全、防衛、開発、人権

Ⅷ. 未来への投資と持続可能な財政

Ⅸ. 政府と会派の仕事のやり方

 

次回は、国際的な人権保護についての内容を詳しくみていきます。