島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【フィリピン労使関係】フィリピン労働組合の現状とパワー

 フィリピンにおいては、労働市場における不可欠のアクターである労働組合の活動が低調な様子が統計からはうかがえました。では実際にフィリピン国内で労働組合はどのように見られているのでしょか?Business Mirror紙の2018年12月27日付の記事を要約してみます。

 

businessmirror.com.ph

 【団結は力なり、しかしもし非常に少数の労働者しか組織化されていなかったら?】

フィリピンでは労働組合の活動家たちは頑張っているものの、労働組合に組織化されている労働者はごく一部であることが述べられています。またフィリピンのいわゆるナショナルセンター(日本でいう連合、全労連全労協の三団体)は細かく分かれています。Wikipediaによると、

Alliance of Progressive Labor (APL)
Confederation of Filipino Workers (CFW)
Federation of Free Workers (FFW)
May First Labour Movement (KMU) Kilusang Mayo Uno
Trade Union Congress of the Philippines (TUCP)
Bukluran ng Manggagawang Pilipino (BMP)

が存在するということです。細かく分かれていても、利害関係が一致する課題については共同歩調を取って交渉力を高めようとしているとのこと。

遅々とした組合員数増加

雇用労働者の数が急激に増加しており、組織人数を増やしても雇用労働者数の増加のスピードの方が速いため、組織率が下がってしまうことが説明されています。

経営側の脅し

非正規労働者が組合に加入しようとすると解雇されるか正社員にしてもらえなくなること、正規労働者が組合を結成しようとすると経営側からハラスメント、ブラックリストへの記載、降格、さらには刑法上の罪で告訴される実態が紹介されています。組合結成段階の話ですね。

法律に関する攻防

労働局に結成した組合を登録して正式に組合が発足しても、会社側がその組合を認められない理由をでっちあげて取消の裁判を何度でも提起できるので、組合活動ができない現状の紹介です。組合結成後の話ですね。

身体的な暴力

労働組合が実際にストライキを決行すると、組合役員が逮捕されたり参加組合員に暴力が振るわれたりするそうです。しかも中央政府は見て見ぬふり、と。前項の組合潰しに使える法律のこととこの項の労働組合権への侵害は、ILOや国際労働団体も非難しているのに改善されていないことも指摘されています。

企業側の考え方

フィリピンの経営者団体であるEcopによると、加盟企業の中には組合を敵対視する企業もあるけれども、反児童労働キャンペーンや安全衛生推進などでは労働組合と共同歩調で取り組んでいるとのことです。また社員が組織化されている企業では労働条件について組合と交渉すればいいので話が早いということも認識しているようです。

賃金との関係

先日筆者が述べたように、フィリピンではお給料の額が最低賃金に連動しているのが一般的です。そのため毎年各地域の三者構成の委員会で決定される最低日給の金額は大きく報道されるのですが、Ecopは実質的に行政が強権的に賃金決定する現状よりも、企業内の労働協約で賃金決定される方が望ましいとしています。

実際に、協約で賃金が決まっている会社の方がそうではない会社よりも賃金が高いし、調査によると、組合がある会社の方が成果給を導入してより高い賃金を支給しているということが明らかになっているそうです。

この項では、組織率が低いがためにほとんどの労働者の賃金が最賃に張り付いているのだと結んでいます。

ミレニアル世代を組織化できていない

労働組合は組織化のターゲットを大企業に設定しており、中小企業の組織化が進んでいない。従業員200名以上の大企業の組織率は8%であるのに対して、100名から199名の企業での組織率は5.3%、20名から99名の企業では2.9%だそうです。組合が組織かターゲットにしている産業や企業規模のところには、若い労働者はそれほど多くないようです。

非正規労働者を組織化できていない

すでに非正規労働者の組織化や社内の非正規労働者を対象にした労働協約を締結する組合は登場しているものの、やはり難しいので、労働雇用省は違法に非正規化されている労働者を正規労働者にするキャンペーンを展開しており、2019年も引き続き正規化キャンペーンは行われるとのことです。

組合をオンライン登録できるように

以前からある労働局に直接出掛けて組合設立を登録する方法だけではなく、オンラインで組合設立を登録できるようになった。これに加えて、組合の設立を容易にする法案が国会にかかっており、雇用労働省はこの法案成立を応援しているとのことです。

 

4月15日のブログではフィリピンでのストライキの少なさや組合組織率の低さを明らかにしましたが、背景にはこのような事情がありました。厚労省の『2018年 海外情勢報告』ではフィリピンの労使関係を

…近年大規模デモなどは発生しておらず、労使関係はおおむね良好である。 (344ページ)

と評価していますが、憲法や法律における労使紛争の未然解決条項やスト件数以外にも目を向けると、実態は反対だという評価になるのではないでしょうか?