島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

フィリピンの労働者の権利の保護のレベル

国際労働組合総連合(英語:International Trade Union Confederation、略称:ITUC)は毎年 "ITUC Global Rights Index" という報告書を公表しています。この報告書は、国際的に認められている労働者の権利が政府や使用者からどれだけ侵害されているかについてまとめています。権利侵害の深刻さを数値化しており、特に「最悪の権利侵害国トップ10」との目を引くまとめ方により分かりやすく示されています。

フィリピンは昨年2018年の報告書では「最悪の権利侵害国トップ10」に選ばれてしまいました。

そして今年の報告書でも、引き続き調査国145か国の中で「最悪の権利侵害国トップ10」に選ばれています。今年の報告書はこちら。

https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/2019-06-ituc-global-rights-index-2019-report-en-2.pdf

この報告書の25ページがフィリピンの状況についての報告になっています。問題点は「暴力と殺人、公の抗議活動に対する過酷な抑圧、抑圧的な法律」という3点を指摘しており、具体例としては昨年2018年10月にネグロス島の砂糖農場で農地解放を求めて農地を占拠していた砂糖業労働者組合の活動家9人が射殺された事件を挙げています。

これがその事件の詳細です。

このITUCのフィリピン批判に対してフィリピン労働雇用省(DOLE)は7月5日に、「ドゥテルテ政権下でフィリピンの労働者はこれまで以上に労働法上の権利を享受している」「報告書で言及された事件は労働問題が関連していない」と公式に反論しました。

 

私見では、ITUC(ヨーロッパ的労働組合観が主流?)の考える労働組合の活動領域(労働条件以外でも労働者の暮らしに関することには労働組合が介入する)とDOLEの考える労働組合の活動領域(労働組合は労働条件に関することに対してのみ活動)が違っているので、このような反論が出てきたのではないかな、と思います。

法的な意味での労働組合の活動領域、すなわち団交の対象事項、ということの他に、企業内労使関係や社会的な意味での労働組合の発言や活動領域にも目配りすると、ILOやITUCのこの手の報告書の言いたいことが理解できるのではないかという気がします。

ちなみにドイツが6段階評価で最良の「1」、日本やフランスはその次の「2」なんですが、なぜこの評価になったのかの理由が明示されていないのですっきりしない報告書の作りではあります(なのでDOLEが不満に思って反論するのも仕方ない面もある)。

 

【追記】

スミフルの件についてはITUC報告書の14ページに下記の記載あり(上述の砂糖業での事件と本件の2件について報告書は取り上げています)。

> On 31 October, Danny Boy Bautista, a 31-year-old harvester and active NAMASUFA  member, was shot four times by an unidentified gunman during strike action at Sumifru, a Japanese fruit exporting company.

トラブル時にヒットマンが登場するのはフィリピンのよくあるパターンですが、交渉ではなく実力行使を日本企業が関係する案件で選択することはやめてもらいたいものです。