島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】自社だけではなく取引先にも人権重視要求へ:サプライチェーン法案(2)

サプライチェーン法案:Entwurf eines Gesetzes über die unternehmerischen Sorgfaltspflichten in Lieferketten 

ドイツでは2016年にNAPが策定されました。

www.auswaertiges-amt.de

しかしNAPでは企業を動かすことはできなかったので、NAPが求めているものを企業に実行させるための法制化に踏み切りました。

正式名称の日本語訳は「サプライチェーンにおける企業の注意義務に関する法律案」です(Sorgfaltspflichtが注意義務、Lieferketteがサプライチェーン)。ドイツでは通称 サプライチェーン法(Lieferkettengesetz)や注意義務法(Sorgfaltspflichtengesetz)と呼ばれています。

この法案の政府提案以降の情報まとめは、連邦雇用・社会省のこちらのページ。

www.bmas.de

現在法案は連邦議会(いわゆる下院)で審議中ですが、法案審議状況の情報まとめは、下院のこちらのページ。法案は下記ページに掲載されていますが、 これです(日本でいう、白表紙)。審議は4月22日に開始しています。

www.bundestag.de

なお、ドイツの法案提出の手続きは、政府提案の法案の場合はまず連邦参議院(いわゆる上院)に送付されることから始まります(法案提出権があるのは、政府、下院議員、上院)。上院は法案についての態度を決定、それを連邦政府に伝え、その後上院の態度と連邦政府の見解を添えて法案を下院に送付します。

5月7日付で上院が表明していた態度はこちら。

www.bundesrat.de

上院は、 Der Bundesrat hat keine Einwände gegen den Gesetzentwurf der Bundesregierung über die unternehmerischen Sorgfaltspflichten in Lieferketten. 

(上院は連邦政府が提出した、サプライチェーンにおける企業の注意義務に関する法律に対して、意義はない。)

と言っています。しかし報道によると、下院で法案を一部修正するらしいので、修正後の法案が下院通過後に両院協議会が開催され、修正後の法案について何かしら協議されるかもしれません(筆者はドイツ国会の実際の運営には詳しくないので、この部分はよくわかりません、とエクスキューズ)。

法案の骨子

簡単に言うと、①一定規模以上のドイツ国内の企業に、②自社のサプライチェーンに直接・間接に関わる国内外のすべての企業が人権侵害しないよう気を付ける(公法上の)注意義務を課し、③所轄の当局は対象企業が注意義務を履行しているか監督し、④注意義務を履行していない場合には当局が助言・指導、さらには秩序違反として過料を科したり公共調達から排除したりする、というものです。注意義務の内容は、前回ブログで言及した「人権デュー・ディリジェンス」。

ドイツではこの法律を作る議論をしている際、大きな論争が起こったのは、企業に課す注意義務は公法上のものだけではなく私法上のものも含むべきか否か、ということでした。

www.sueddeutsche.de

結局私法上の義務については、首相と経済・エネルギー大臣の反対で、法案には盛り込まれませんでした。

 

(続く)