島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容

前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、通称 Lieferkettengesetz(サプライチェーン法)はLieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)と通称名を若干を変えて6月25日に成立し、7月16日に大統領が認証、22日に官報に掲載され公布されました。

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

所管省庁が同法施行の準備に必要な部分に限り公布の翌日に施行されましたが、大部分は2023年1月1日に施行されます。

連邦労働・社会省による同法英語版はこちら。

https://www.bmas.de/SharedDocs/Downloads/DE/Internationales/act-corporate-due-diligence-obligations-supply-chains.pdf;jsessionid=523FD59347A693DD792BAD466320F288.delivery2-replication?__blob=publicationFile&v=3

下院に提出された法案は、下院で一部修正があり、上院では修正なしで可決されました。

今回は成立した法律の内容について条文に沿って見ていきます。

 

【第1章】 第1節 総則

第1条 適用範囲

ドイツ国内に、主たる管理部門、本店、管理部門、定款上の所在地のいずれかがある企業(外国籍企業のドイツ国内支社も含む)で、かつ法施行の2023年1月にはドイツ国内の従業員数が3000人以上、2024年1月にはドイツ国内の従業員数1000人以上の企業が対象です。従業員には国内から国外に派遣されている人も含みます。企業の国籍は関係なし。

 

第2条 定義

(1)まず、この法律が保護する法的地位は、附則の一覧の1から11までの条約が保護する人権から生じるものになります。

1. ILO29号条約(強制労働)★

2. ILO29号条約の2014年議定書

3. ILO87号条約(結社の自由及び団結権保護)★

4. ILO98号条約(団結権及び団体交渉権)★

5. ILO100号条約(同一報酬)★

6. ILO105号条約(強制労働廃止)★

7. ILO111号条約(差別待遇(雇用及び職業))★

8. ILO138号条約(最低年齢)★

9. ILO182号条約(最悪の形態の児童労働)★

10. 国際人権規約自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約))

11. 国際人権規約社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約))

★はILOの中核的労働基準です。8条約すべてが入っています。

(2)つぎに、この法律での「人権に関するリスク」について。実際の状況に基づき、十分な蓋然性を持ち、上記11条約に含まれる法的地位を守るための禁止事項(12項目(後述))の一つに対してでも違反が起こりそうな状態のこと、だそうです。普通に考えると、上記11条約が守る人権を企業が実際に侵害している場合に、違反として企業に刑罰や損害賠償を科すような法律構成にしそうなものですが、11条約から派生する禁止事項、しかも「十分な蓋然性」とは、あいまいで不思議な気もします。

さて、12項目の禁止事項ですが、

①ILO138号条約に基づく児童労働の禁止、②ILO182号条約に基づく児童労働の禁止、③ILO29号条約と国際人権規約自由権規約に基づく強制労働の禁止、④あらゆる形態の強制労働の禁止、⑤当該国内の労働者保護に関する法的義務の無視の禁止(特に労働安全、労働時間・休憩休息、不十分な教育)、⑥団結権の無視の禁止、⑦差別の禁止、⑧適当な賃金を渡さないことの禁止(特に最賃以下)、⑨人に損害を与えるような土地利用の変更、水や空気の汚染、騒音、水の過剰利用の禁止、⑩法に反する強制的な移住などの禁止、⑪企業プロジェクトを守るために私的または公的な保安勢力を用いるまたは依頼することの禁止、⑫その他類似する作為不作為で11条約が守る人権を侵害するものの禁止。

(3)この法律での「環境に関するリスク」とは、附則の一覧の12番目の水銀に関する水俣条約と13番目の残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、14番目の有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約から派生する禁止事項の一つに対してでも違反が起こりそうな状態のことをいうとしています。(2)と同じ構成です。

(4)この法律での「人権に関する義務違反」とは、上記(2)の①から⑫で禁じられいることに対する違反、「環境に関する義務違反」とは上記(3)で禁じられていることに対する違反としています。

(5)この法律での「サプライチェーン」とは、企業のすべての製品とサービス、をいうとしています。国内外を問わず、サプライチェーンの初めから終わりまで、また自社および直接・間接的なサプライヤーの行為のすべてが含まれます。

(6)この法律での「企業活動の範囲」とは、国内外を問わず企業が自社の目的を達成するためになす行為のすべてをいいます。

(7)この法律での「直接的なサプライヤー」とは、直接の契約関係にある企業です。

(8)この法律での「間接的なサプライヤー」とは、当該企業とは直接の契約関係にない企業で、しかし自社の生産やサービス提供にはその企業の存在が不可欠である企業です。

 

つまり...、この法律の対象企業のやることなすこと作るものすべて、人権11条約+環境3条約から派生する権利に悪影響を及ぼさないようにしなさいよ、直接的なサプライヤーの直接的なサプライヤーにまでよくよく気を付けてね、という、相当に企業が気を使わないといけないルールができあがったということではないでしょうか?