島国時々更新日記

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【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(2)

11月23日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第2節 注意義務

第3条 注意義務

(1)対象企業に課される、人権と環境に関する注意義務の内容が列挙されています。対象企業が、「人権または環境に関するリスクを予防する、または最小限にする、または人権や環境に関する義務違反を終わらせるという目標」をもって「適切なやり方で(in angemeesener Weise)」注意しなければならない義務だということです。具体的には、条文の文章を直訳すると下記の事項になります。

1.リスクマネージメントの整備(詳しくは第4条(1))

2.対象企業内での責任者の決定(第4条(3))

3.定期的なリスク分析の実施(第5条)

4.方針を明確にし公表すること(第6条(2))

5.対象企業の活動範囲と直接的なサプライヤーに対する予防措置の確立(対象企業自身については第6条(1)と(3)、直接的なサプライヤーについては同条(4))。

6.是正措置を講じること(第7条(1)~(3))

7.苦情処理手続きの確立(第8条)

8.間接的なサプライヤーに関連するリスクについての注意義務を実行すること(第9条)

9.文書化(第10条(1))と報告書の作成・公表(同条(2))

(2)次は対象企業が注意義務を「適切なやり方で」実行しているか判断するための基準が列挙されています。

1.当該企業の行為能力の性質と範囲

2.人権または環境に関するリスク、もしくは人権または環境に関する義務違反を直接引き起こしているものに対する当該企業の影響力

3.人権または環境に関する、予想される義務違反の特徴、義務違反の回復可能性、義務違反の可能性

4.人権または環境に関するリスク、または人権または環境に関する義務違反の発生原因に対する、当該企業の寄与の様子

(3)この条文では、この法律の義務違反は私法上の義務違反の原因にはならないこと、この法律が成立したからといって、これまでの私法上の責任体系に影響は与えないことが明言されています。

 

さて、法律上は、この第3条に定められた注意義務の意味が問題になってきます。立法者はどのように考えているのかについて、連邦議会に提出された政府資料に記載されている立法理由・各条解説をみていきます。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

このPDFの41ページに、立法者が考える第3条(1)の意味が説明されています。

Die Sorgfaltspflichten begründen eine Bemühens- und keine Erfolgspflicht. Unternehmen müssen nicht garantieren, dass in ihren Lieferketten keine Menschenrechte oder umweltbezogene Pflichten verletzt werden. Sie müssen vielmehr nachweisen können, dass sie die in den §§ 4 bis 10 näher beschriebenen Sorgfaltspflichten umgesetzt haben, die vor dem Hintergrund ihres individuellen Kontextes machbar und angemessen sind. 

(本法における注意義務は、努力をする義務(Bemühenspflicht)であり、成功させる義務(Erfolgspflicht)ではない。企業は自身のサプライチェーンにおいて人権や環境に関する義務違反が生じないことを保証しなけらばならないわけではない。そうではなくて、企業は本法の第4条から第10条に詳細に定められている注意義務を、自身のおかれている状況に応じて実行可能かつ適切な状態にすることで、実現していることを証明できるようにしなければならないということだ。)

 

この文章を読む限りでは、サプライチェーンデューディリジェンス法は、この法律に定められた注意義務を企業に履行させる、注意義務違反には罰則または損害賠償、義務違反の行為の差し止め請求などを用意する、というものではなく、手続きを定めそれを行政が監視・コントロールすることで、間接的に、注意義務が履行されるように持っていくというスタイルを採用していると考えられるでしょう。