島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

「ワクチンパスポート」と基本的人権

新型コロナ感染拡大開始から1年以上経ちました。世界の人々の関心事の方は少しずつ変わってきておりまして、最近は観光やビジネスで「遠くに行きたい」という要請に応えられるのか?ということがトピックスの一つになっております。

 

「ワクチンパスポート」:新型コロナワクチン接種証明書

現在入国に際して、「入国前に実施した新型コロナの陰性証明書が必要」としている国(例:ドイツ)や「陰性証明書またはワクチンの接種(2回接種が必要なものは2回完了)があれば、自主隔離なしの入国を認める」とする国(例:ポーランド)などがありますが、紙の証明書なんてすぐに偽造できてしまいます。

案の定、セブ島ではすでに偽造事件が発生。コロン・ストリートは色んなものが売っているなあ...。

cebudailynews.inquirer.net

 

ということで、スマートフォンの画面に偽造不可能な証明書を表示させる、どの国でも表示言語を気にせず使える、という「ワクチンパスポート」導入の議論が進んでいます。

アメリカでは現在のところ、ワクチンパスポートの導入はないようです。

www.bbc.com

反対にEUでは、ワクチンパスポート導入に積極的です。

www.bloomberg.co.jp

日本は態度保留中です。

www.sankei.com

デジタル立国で有名なエストニアでは、EUでの導入前に独自のワクチンパスポートを開始しています。

medicalxpress.com

"We are planning to have our certificates ready in April together with our partner Guardtime," said Kalle Killar, undersecretary for e-health and innovation at the ministry.

ということで、政府とエストニア民間企業のGuardtimeという会社と共同で開発運用しているそうです。ここは小規模国家なので、「テストベッド」として機能しやすいとか。

guardtime.com

 

ワクチンパスポートのデメリットや問題点?

とりあえず便利そうな制度ですが、新しいものには想定外のデメリットや問題点があるのが通常で、特に今回は健康関連情報というセンシティブなものを扱うのですから、慎重になるべきでしょう。

エストニア人、違和感を覚えて反発とかしないの?」と思っていたら、すでにそちらの方にも考えが及んでおり、4月12日にタリン大学がウェビナーを開催して、ワクチンパスポートを基本的人権の観点から考察したワーキングペーパーを公表していました。

 

www.tlu.ee8

このページでダウンロードして読めるワーキングペーパーは、欧州科学技術協力機構(COST)の助成を受け23か国の研究者と共同でまとめた比較研究です。論稿自体は16ページ。

筆者の考えでは、日本では省庁の審議会に先立って研究会を開催し、情報収集や論点整理を行うように、このワーキングペーパーはワクチンパスポートを実用化する際にEUが参考にするものの一つになるんじゃないかと思います。

 

ワーキングペーパーの内容は?

タイトル:「論説:新型コロナ『ワクチンパスポート』」

目次:

EUレベルのワクチンパスポート
 ポジティブな面
 ネガティブな面

想定される「ワクチンパスポート」により生み出される人権保護に対する課題
 プライバシー権
 データ保護
 非差別性

民間企業に「ワクチンパスポート」を基に制限を強制させる国家規制の存在

公共の場および公共サービスへのアクセスに関する基本的権利の行使について、「ワクチンパスポート」を基に制限を強制させる国家規制の存在
 リトアニアの例

人権の観点からの、「ワクチンパスポート」のアイデアに関連した主な実務上の課題と基本的な懸念
 実務上の課題
 基本的な懸念

推奨

 

「ポジティブな面」としては主にコロナ時代の人の移動に資すること、「ネガティブな面」としてはワクチンを打った/打っていないで移動の自由に差が生じる差別性、および、コロナ関連規制において打った/打っていないで分断が生じ「打っていないと二級市民」という流れができかねないことが指摘されています。

プライバシー権、データ保護、非差別性」のところでは、ワクチンパスポートについてのモヤモヤが3つの類型に整理可能なことが分かります。

そして「実務上の課題」では、政治的合意に至る難しさ、法的枠組み、「ワクチンパスポート」といった場合の内容や定義の共通化の困難さ、実施および運営におけるデータ保護が挙げられています。

そして最後の「推奨」では、差別性解消のためにワクチン以外の代替として陰性証明書の提示も認められるべきであること、EUと加盟各国が可及的速やかにEUレベルでのワクチンパスポートの枠組みに合意するべきこと、各国が独自の制度を作ってしまうとEUレベルでの統一が難しくなること、法的枠組みを作る際には差別性解消の視点に加えて民間企業がワクチンパスポートを基に何らかの規制を課すことの法的裏付けや運用モデルを組み込むこと、を求めています。

 

以上、恐らくワクチンパスポートの技術的な面や活用場面に関心が高まりがちかもしれませんが、法律上の論点や解決策についても整理する動きがあるということでした。