島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(12)

3月21日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第4節 行政による管理と実施

第3款 所管の省庁、助言・指導、事業報告

第19条 所管の官庁

(1)連邦経済・輸出管理庁がLkSGに基づく管理や実施を担います。また、連邦経済・エネルギー省(現在は連邦経済・気候保護省)がこの法律を所管し、同省は連邦社会・雇用省と協力して事に当たります。

(2)所管の官庁は、自身の責務を果たす際には、リスクに基づくアプローチを行います。

 

第20条 助言

所管の官庁は、産業部門を超えた、または各産業部門に特化した、LkSG遵守のための情報、援助の場、推奨を公開し、関係する省庁と調整します。情報、援助の場、推奨が外交政策上の重要性を持つ場合には、それらを公開する前に連邦外務省の同意が必要としています。

 

第21条 年次報告書

(1)連邦経済・輸出管理庁は、年に一度、LkSGに基づく管理や実施の状況について報告書を作成、公開します。初回報告書は2022年に作成し、同庁ウェブサイトで公開します。

(2)報告書には、同庁が把握した法違反や指示した是正措置についての記述を盛り込みます。第12条により同庁に提出された企業の報告書(1月30日ブログ記事参照)の評価も盛り込みますが、その際にはそこで言及する企業の実名は出さないとしています。

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(11)

2月21日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第4節 行政による管理と実施

第2款 リスクに基づいた管理

第17条 情報提供と資料提出の義務

(1)企業と第15条の1により召喚された関係者は、所管の省庁の求めに応じて、情報や資料を提供することが義務透けられています。この情報提供の義務はLkSGが直接適用になる企業だけではなく、株式会社法第15条による結合企業、直接的・間接的なサプライヤーにも拡大されます。

 

(2)上記(1)により提供する情報や資料は、特に下記3点を含んでいることが必要です。3点を直訳します。

1.当該企業がLkSGの適用範囲にあるか否かを判断することに必要な申告と証拠。

2.当該企業が第3条から第10条(1)に基づく義務を履行したか否かに関する申告と証拠。

3.当該企業が第3条から第10条(1)に基づく義務を履行したか否かについて、当該企業内で監督する責任者の氏名。

 

(3)上記(1)により情報の提供を義務付けられている人は、一定の場合には、情報提供を拒否できることが定められています。すなわち、自身の回答が、自身もしくは刑事手続規則第52条(1)が定める家族に対して、刑事上の訴追または秩序違反法による手続きの恐れがある場合には、情報提供を拒否できます。また、情報提供を義務付けられている人は、情報提供拒否の権利があることを告知されなければなりません。そして、LkSGにより、その他の法律上の情報提供や証言の拒否権、守秘義務は影響を受けないとしています。

 

第18条 甘受義務と協働義務

企業は所管の省庁による措置や依頼を受け入れ、措置の実施に当たっては協働する義務があります。これは企業だけではなく、企業オーナーや企業の代理人にも当てはまります。

 

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(10)

1月30日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第4節 行政による管理と実施

第2款 リスクに基づいた管理

第14条 所管省庁の活動;省令制定の権限

(1)ここでは所管省庁の活動内容を定めます。「評価(Ermessen)」と「申立て(Antrag)」を担当します。

1.以下について評価します。

a) 第3条から第10条(1)までの義務の遵守のため、人権や環境に関するリスクおよび人権や環境に関する義務を管理すること。

b) 上記 a) の義務の違反を把握し、除去し、回避すること。

2.もし申し立てができる立場の人が以下に関する申し立てをしてきた場合に、これを取り扱います。

a) 第3条から第9条までに含まれる義務が履行されていない結果、保護されるべき法的地位が侵害されていること。

b) 上記 a) の侵害が切迫していること。

(2)労働・社会省は上記(1)および第15条から第17条のリスクに基づいた管理の手続きの詳細を、経済・エネルギー省とともに連邦参議院(上院)の承認なしで省令に定めることができるとしています。

 

第15条 指導と措置

(1)所管の省庁は、適切かつ必要な指示と措置を実施して、第3条から第10条(1)までの義務の違反を把握し、除去し、回避するします。特に下記の事項が重要だとしています。

1.関係者を召喚する。

2.問題のある企業に対して、指導を発してから3か月以内に、その不都合な状況を除去する計画を作成させます。計画には、計画実施の明確なタイムテーブルも含まれなければなりません。

3.問題のある企業に対して、義務を履行するための具体的な行動を決めさせます。

 

第16条 臨検監督の権利

(1)所管の省庁が第14条の活動を遂行するに必要な限度において、当該省庁とその代理人は以下のことができるとしています。

1.事業所の敷地、事務室、工場などの管理棟への立ち入りや検査。

2.第3条から第10条(1)までの注意義務を遵守しているか確認するため、事業関係の資料や記録文書を閲覧、検査すること。

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(9)

1月10日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第4節 行政による管理と実施

第1款 報告書の審査

第12条 報告書の提出

(1)企業に対して第10条(1月9日のブログ記事参照)(2)にある報告書を、ドイツ語で、電子的に、所管省庁に提出することを義務付けています。

(2)報告書は事業年度終了後4か月以内に提出します。

 

第13条 行政による審査;省令制定の権限

(1)所管省庁は以下の2点を審査します。

1.第10条(2)の1番目の文章(毎年報告書を作成、事業年度終了後4か月以内の作成、インターネット上で7年間無料公開)に沿った報告書であるか。

2.第10条(2)と(3)が含まれた報告書であるか。

(2)もし報告書に第10条(2)と(3)が求める内容が含まれていない場合には、所管省庁は、その報告書を提出した企業に対して、適当な期間内に内容の改善を完了するよう、求めることができます。

(3)労働・社会省は以下の手続きの詳細を、経済・エネルギー省とともに連邦参議院(上院)の承認なしで省令に定めることができるとしています。

1.第12条に基づく報告書の提出の手続き。

2.この第13条(1)と(2)に基づく報告書の審査手続き。

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(8)

1月9日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第3節 民事手続き

第11条 特別な訴訟担当者(Besondere Prozessstandschaft)

(1)第2条の(1)(11月23日のブログ記事参照)により保護される、格別に重要な法的地位を侵害された人は、ドイツ国内の労働組合またはNGOに訴訟での権利実現を委任することができます。

(2)上記(1)の委任により訴訟を代理できる労働組合またはNGOは、長期間組織として存在しているものであることが必要です。そして、人権または関連する権利を実現させることを営利目的で行っているとか、そのために一時的に存在しているだけであるとか、そういった組織ではないことが必要です。

 

第11条は民事訴訟に関する条文ですので、第3条の(3)(12月19日のブログ記事参照)で定める、このLkSGの違反は私法上の義務違反にならないことも併せてみていきます。

まず第3条の(3)は連邦議会の審議における法案修正により追加された条文なので、連邦議会資料の法案修正理由を参照します。39ページです。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/305/1930505.pdf

Der Regierungsentwurf eines Sorgfaltspflichtengesetzes wurde mit dem Ziel und der Vorstellung beschlossen, gegenüber der geltenden Rechtslage keine zusätzlichen zivilrechtlichen Haftungsrisiken für Unternehmen zu schaffen. Die zum Zwecke einer Verbesserung der Menschenrechtslage in internationalen Lieferketten begründeten neuen Sorgfaltspflichten sollen vielmehr im Verwaltungsverfahren und mit Mitteln des Ordnungswidrigkeitsrechts durchgesetzt und sanktioniert werden. Dies ist insbesondere im Hinblick auf § 823 Absatz 2 BGB klarzustellen. Soweit unabhängig von den neu geschaffenen Sorgfaltspflichten bereits nach der geltenden Rechtslage
eine zivilrechtliche Haftung begründet ist, soll diese jedoch unverändert fortbestehen und in besonders schwerwiegenden Fällen in ihrer Durchsetzung erleichtert werden. 

(政府提出のデューディリジェンス法案は、現在の法的状況に対して追加の企業の私法上の責任リスクを形成しないという目的と考えにより決定された。国際的なサプライチェーンにおける人権の状況を改善する目的で新設される注意義務は、これとは反対に、行政上の手続きにおいて、また秩序違反の法により実現され、罰せられる。これはとりわけ、ドイツ民法典第823条の(2)(注・損害賠償に関する条文)を鑑みるに明らかである。新しく形成される注意義務に関係なく、現在の法的状況に基づき私法上の責任を追及する限りにおいては、私法上の責任は変わることなく存続し、特に深刻なケースでは、責任の追及は容易化される。)

 

次に政府が連邦議会に提出した資料で、第11条について立法者が想定していることをみていきます。52ページです。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

Der Kreis der Betroffenen, die auf diese Weise ihre Prozessführungsbefugnis übertragen können, wird durch den Verweis auf die überragend wichtigen Rechtspositionen aus § 2 Absatz 1, etwa Leib oder Leben, eingeschränkt.
Diese Bedeutung wird durch den Wortlaut in § 11 Absatz 1 ausdrücklich klargestellt. 

(訴訟を提起する権限がある、関係する人の範囲は、第2条の(1)に記載の、例えば身体や生命に関する格別に重要な法的地位にある人に限定される。この意味は第11条の(1)の文言により、明確になっている。)

 

すなわちLkSGは、この法律が適用になる企業に対して、人権や環境に関する義務を果たしていることを、手続きを通して証明させ、また行政が手続きを通してコントロールするものであり、この法律が定める人権や環境に関する国際条約が保護しようとする権利が侵害されて、人間が実際に被害を被った場合(≠リスク、リスクは侵害ではないので)には、従来の民事訴訟手続きにより企業の責任を追及し損害賠償を請求する、という整理になります。その民事訴訟手続きの際に、労働組合NGOが訴訟代理人となれるということです。

 

もう少しこの部分のイメージをはっきりさせるために、ドイツのフリードリヒ・エーベルト財団が2021年11月に公表したLkSGの解説をみていきます。

http://library.fes.de/pdf-files/iez/18516.pdf

Bei der Prozessführung stoßen die Rechteinhaber_innen vielfach auf finanzielle, sprachliche und andere praktische Hürden. Um diese Hürden abzusenken, ermöglicht das LkSG es ihnen, Nichtregierungsorganisationen und Gewerkschaften zur Prozessführung vor deutschen Zivilgerichten zu ermächtigen (§ 11 LkSG). Diese treten dann anstelle der betroffenen Menschen als Prozessstandschafter auf, reichen (beim Landgericht anwaltlich vertreten) eine Klage auf Zahlung von Schadensersatz an die betroffenen Menschen ein und führen den Prozess in deren Interesse. Bisher war die Prozessstandschaft im deutschen Zivilprozess fast ausschließlich in Angelegenheiten der Testamentsvollstrecker_innen und Insolvenzverwalter_innen zulässig. 

(訴訟遂行に際しては、権利を有する人は多くの場合、財政的、言語的そしてその他の面のハードルに突き当たる。このハードルを下げるために、LkSGはそのような人の代わりにNGO労働組合にドイツの民事裁判所での訴訟遂行を可能にしている(LkSG第11条)。NGO労働組合は、そのような関係者に代わって訴訟代理人として登場し、(地裁で弁護人として代理して)そのような関係者に対して損害賠償を支払うよう訴えを起こし、そのような関係者の利益のために手続きを進める。これまで、ドイツの民事訴訟手続きにおける(弁護士以外の)訴訟代理は、ほぼ遺言執行者と破産管財人にのみ、認められていた。)

 

Eine Pflicht zur Wiedergutmachung (in der Form eines Schadensersatzanspruchs) findet sich im LkSG zwar nicht. Zivilgerichte werden aber die Sorgfaltspflichten des LkSG bei
der Anwendung der bereits bestehenden Anspruchsgrundlagen (meist ausländischen Rechts) nicht unberücksichtigt lassen können. Zudem setzt das LkSG durch die Kriterien
der Bußgeldbemessung einen Anreiz zur freiwilligen Wiedergutmachung von Schäden.

(損害賠償の義務は(損害賠償請求という形では)、LkSGには定められていない。しかし民事裁判所は、LkSGの注意義務を、これまでに存在している請求の理由(ほとんどが外国法によるもの)を使って追及することで、注意義務を考慮しないわけにはいかない。加えて、LkSGは過料の査定の基準を通じて、損害に対する自発的な賠償のきっかけを生み出す。)

 

こうした記述からは、LkSGが施行されると、LkSGが適用される企業が同法が保護する人権や環境に関する人々の権利を実際に侵害している場合、これを放置していると、労働組合NGOからの申し入れや訴訟提起などがなされる可能性が高まることが予想されます。