島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(8)

1月9日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第3節 民事手続き

第11条 特別な訴訟担当者(Besondere Prozessstandschaft)

(1)第2条の(1)(11月23日のブログ記事参照)により保護される、格別に重要な法的地位を侵害された人は、ドイツ国内の労働組合またはNGOに訴訟での権利実現を委任することができます。

(2)上記(1)の委任により訴訟を代理できる労働組合またはNGOは、長期間組織として存在しているものであることが必要です。そして、人権または関連する権利を実現させることを営利目的で行っているとか、そのために一時的に存在しているだけであるとか、そういった組織ではないことが必要です。

 

第11条は民事訴訟に関する条文ですので、第3条の(3)(12月19日のブログ記事参照)で定める、このLkSGの違反は私法上の義務違反にならないことも併せてみていきます。

まず第3条の(3)は連邦議会の審議における法案修正により追加された条文なので、連邦議会資料の法案修正理由を参照します。39ページです。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/305/1930505.pdf

Der Regierungsentwurf eines Sorgfaltspflichtengesetzes wurde mit dem Ziel und der Vorstellung beschlossen, gegenüber der geltenden Rechtslage keine zusätzlichen zivilrechtlichen Haftungsrisiken für Unternehmen zu schaffen. Die zum Zwecke einer Verbesserung der Menschenrechtslage in internationalen Lieferketten begründeten neuen Sorgfaltspflichten sollen vielmehr im Verwaltungsverfahren und mit Mitteln des Ordnungswidrigkeitsrechts durchgesetzt und sanktioniert werden. Dies ist insbesondere im Hinblick auf § 823 Absatz 2 BGB klarzustellen. Soweit unabhängig von den neu geschaffenen Sorgfaltspflichten bereits nach der geltenden Rechtslage
eine zivilrechtliche Haftung begründet ist, soll diese jedoch unverändert fortbestehen und in besonders schwerwiegenden Fällen in ihrer Durchsetzung erleichtert werden. 

(政府提出のデューディリジェンス法案は、現在の法的状況に対して追加の企業の私法上の責任リスクを形成しないという目的と考えにより決定された。国際的なサプライチェーンにおける人権の状況を改善する目的で新設される注意義務は、これとは反対に、行政上の手続きにおいて、また秩序違反の法により実現され、罰せられる。これはとりわけ、ドイツ民法典第823条の(2)(注・損害賠償に関する条文)を鑑みるに明らかである。新しく形成される注意義務に関係なく、現在の法的状況に基づき私法上の責任を追及する限りにおいては、私法上の責任は変わることなく存続し、特に深刻なケースでは、責任の追及は容易化される。)

 

次に政府が連邦議会に提出した資料で、第11条について立法者が想定していることをみていきます。52ページです。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

Der Kreis der Betroffenen, die auf diese Weise ihre Prozessführungsbefugnis übertragen können, wird durch den Verweis auf die überragend wichtigen Rechtspositionen aus § 2 Absatz 1, etwa Leib oder Leben, eingeschränkt.
Diese Bedeutung wird durch den Wortlaut in § 11 Absatz 1 ausdrücklich klargestellt. 

(訴訟を提起する権限がある、関係する人の範囲は、第2条の(1)に記載の、例えば身体や生命に関する格別に重要な法的地位にある人に限定される。この意味は第11条の(1)の文言により、明確になっている。)

 

すなわちLkSGは、この法律が適用になる企業に対して、人権や環境に関する義務を果たしていることを、手続きを通して証明させ、また行政が手続きを通してコントロールするものであり、この法律が定める人権や環境に関する国際条約が保護しようとする権利が侵害されて、人間が実際に被害を被った場合(≠リスク、リスクは侵害ではないので)には、従来の民事訴訟手続きにより企業の責任を追及し損害賠償を請求する、という整理になります。その民事訴訟手続きの際に、労働組合NGOが訴訟代理人となれるということです。

 

もう少しこの部分のイメージをはっきりさせるために、ドイツのフリードリヒ・エーベルト財団が2021年11月に公表したLkSGの解説をみていきます。

http://library.fes.de/pdf-files/iez/18516.pdf

Bei der Prozessführung stoßen die Rechteinhaber_innen vielfach auf finanzielle, sprachliche und andere praktische Hürden. Um diese Hürden abzusenken, ermöglicht das LkSG es ihnen, Nichtregierungsorganisationen und Gewerkschaften zur Prozessführung vor deutschen Zivilgerichten zu ermächtigen (§ 11 LkSG). Diese treten dann anstelle der betroffenen Menschen als Prozessstandschafter auf, reichen (beim Landgericht anwaltlich vertreten) eine Klage auf Zahlung von Schadensersatz an die betroffenen Menschen ein und führen den Prozess in deren Interesse. Bisher war die Prozessstandschaft im deutschen Zivilprozess fast ausschließlich in Angelegenheiten der Testamentsvollstrecker_innen und Insolvenzverwalter_innen zulässig. 

(訴訟遂行に際しては、権利を有する人は多くの場合、財政的、言語的そしてその他の面のハードルに突き当たる。このハードルを下げるために、LkSGはそのような人の代わりにNGO労働組合にドイツの民事裁判所での訴訟遂行を可能にしている(LkSG第11条)。NGO労働組合は、そのような関係者に代わって訴訟代理人として登場し、(地裁で弁護人として代理して)そのような関係者に対して損害賠償を支払うよう訴えを起こし、そのような関係者の利益のために手続きを進める。これまで、ドイツの民事訴訟手続きにおける(弁護士以外の)訴訟代理は、ほぼ遺言執行者と破産管財人にのみ、認められていた。)

 

Eine Pflicht zur Wiedergutmachung (in der Form eines Schadensersatzanspruchs) findet sich im LkSG zwar nicht. Zivilgerichte werden aber die Sorgfaltspflichten des LkSG bei
der Anwendung der bereits bestehenden Anspruchsgrundlagen (meist ausländischen Rechts) nicht unberücksichtigt lassen können. Zudem setzt das LkSG durch die Kriterien
der Bußgeldbemessung einen Anreiz zur freiwilligen Wiedergutmachung von Schäden.

(損害賠償の義務は(損害賠償請求という形では)、LkSGには定められていない。しかし民事裁判所は、LkSGの注意義務を、これまでに存在している請求の理由(ほとんどが外国法によるもの)を使って追及することで、注意義務を考慮しないわけにはいかない。加えて、LkSGは過料の査定の基準を通じて、損害に対する自発的な賠償のきっかけを生み出す。)

 

こうした記述からは、LkSGが施行されると、LkSGが適用される企業が同法が保護する人権や環境に関する人々の権利を実際に侵害している場合、これを放置していると、労働組合NGOからの申し入れや訴訟提起などがなされる可能性が高まることが予想されます。