島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG))の内容(5)

1月1日のブログ記事に続く内容です。

Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz(サプライチェーンデューディリジェンス法)

https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_BGBl&jumpTo=bgbl121s2959.pdf

 

第7条 是正措置

(1)企業が自社の企業活動の範囲内または直接のサプライヤーにおいて、人権または環境に関する義務違反があることを把握した際には、企業は義務違反を防止または終了させる、またはその程度を最小限にするために、遅滞なく是正措置を講じることを義務付けています。またこの場合も、第5条(1)の2番目の文章に記載の、迂回的取引等により直接的なサプライヤーを間接的なサプライヤーに偽装していれば、それは直接的なサプライヤーとみなすというルールを適用するとしています。そして是正措置は、義務違反を終了させる方向で実施されなければならないとしています。

(2)義務違反が自社の企業活動の範囲内で発生している場合には、自分たちで対処できますが、その範囲外で発生している場合には、他社であるサプライヤーに問題解決してもらわなければならず、やっかいです。この項では、他社による問題解決がスムーズに進みそうもないケースについてのルールを示しています。まず、この項では「人権や環境に関する義務違反が直接的なサプライヤーにおいて発生しているが、企業(注・サプライヤーではなくこの法律が直接適用される企業のこと)がその義務違反を近いうちに終了させることができない場合」という状況に対するルールを設定しています。このようなケースでは、企業は遅滞なく、義務違反を終了または最小限にするための計画を策定、実行する義務があります。計画には具体的な予定・進行日程も記載します。計画の策定と実行にあたっては、下記の3点を必要に応じて行うこととしていますので、3点を直訳します。

1.義務違反を発生させている企業とともに、義務違反を終了または最小限にするための計画を策定、実行すること。

2.義務違反に対する影響力を高めるために、(当該企業の属する)産業部門の主導と産業部門の標準ルールの枠内で、他の企業と提携すること。

3.リスクを最小限にする取り組みの過程において、一時的に(サプライヤーとの)取引関係を停止すること。

(3)この項では、直接的なサプライヤーとの取引関係を終了させるべき場合についてのルールを定めています。ここは実務上、日本企業の関心が高そうですので、「 」内に直訳します。「(サプライヤーとの)取引関係終了は、以下の場合に限り、必要とされる。

1.この法律で保護される法的地位の侵害または環境に関する義務違反が、非常に深刻であると評価される場合。

2.(上記(2)で定める)計画に盛り込んだ措置を実施したが、計画で(効果が出ると)見積もった期間を過ぎても是正の効果がなかった場合。

3.企業にとって取引関係を終了させるより軽い方法がなく、かつ(サプライヤーに対する)影響力を高める見込みがない場合。

サプライヤーの所在する)国で、この法律に記載の国際条約が批准されていない、または国内法化されていないという事実のみでは、取引関係を終了する義務は生じない。この項の2により、ドイツ連邦法、EU法国際法による貿易の制限には影響しない」。

(4)企業は是正措置の検証を年に一度、そして新製品の製造開始など企業内部やサプライチェーン内部に動きがあった場合にも実施することを求めています

 

今回も、政府が連邦議会に提出した資料を参照し、立法者の考えを明らかにします。

https://dserver.bundestag.de/btd/19/286/1928649.pdf

48~49ページで、(2)に記載の「計画」の策定と実行についてみていきます。1については、このように述べています。

Gegenüber einem Zulieferer, der die Verletzung aufgrund eines Verstoßes gegen den vertraglich vereinbarten Lieferantenkodex verursacht hat, sollte der Unternehmer auf Grundlage eines individuellen Korrekturmaßnahme-Plans verlangen, die Vorgaben aus dem Lieferantenkodex bis zu einer bestimmten Frist zu erfüllen (z.B. bestimmte Arbeitsschutzstandards einzurichten). 

サプライヤーとの契約時に合意した、サプライヤーに対する規範集(Lieferantenkodex)に記載のルールに違反して(人権や環境に関する)義務に違反したサプライヤーに対しては、企業はサプライヤーごとに是正措置計画を策定し、計画はサプライヤーに対する規範集に記載のルールに則り、適切な時期までに履行されなければならない(例として、ある労働保護基準の整備)。)

 

また、3に対しては、このように述べています。

Ist absehbar, dass der unmittelbare Zulieferer den im Konzept erarbeiteten Anforderungen nicht nachkommt, sollte das Unternehmen eine Vertragsstrafe durchsetzen, die Geschäftsbeziehungen nach Maßgabe vertraglicher Vereinbarungen zeitweise aussetzen oder das Unternehmen von möglichen Vergabelisten streichen, bis der Vertragspartner die Verletzung beendet hat.  

(直接的なサプライヤーが計画に記載の要求を履行できないことが明らかになった場合には、企業は契約に定めるサンクションを実行しなければならない。それは契約の相手方のサプライヤーが義務違反を終了させるまで、契約で合意したルールに則り取引関係を中断する、または委託先リストから削除するといったことだ。)

すなわち、立法者はこの法律が適用になる企業は、サプライヤーに対する規範集を策定していること、そしてサプライヤーにはその規範集に従うことを契約締結時に求めることを前提にしています。例として、ドイツ企業のシェフラー社の規範集はこちらです。

https://www.schaeffler.de/remotemedien/media/_shared_media/08_media_library/01_publications/schaeffler_2/brochure/downloads_1/schaeffler_supplier_code_of_conduct_de.pdf

 

そして政府資料では、(3)で言及する取引関係を終わらせる場合とは、

... ist als letztes Mittel ein Abbruch der Geschäftsbeziehung zu dem Zulieferer geboten.  

(最終的な手段として、サプライヤーとの取引関係の終了が必要とされる。)

としており、立法者は、人権や環境に関するリスクがあれば即時の取引関係終了とは考えていないようです。

 

このLkSGが適用されるドイツ企業と今後取引したい場合には、まず当該企業が第6条の「人権に関する戦略についての基本方針」をどのような内容としているか、次にサプライヤーに対して具体的に何を求めているかを研究するとともに、当該企業とすでに取引している企業の人権と環境に関する取り組み内容も併せて研究することが必要、ということになるでしょう。

また、サプライヤーが人権や環境に関するリスクを引き起こしている場合には、LkSGはサプライヤーに何かしらの義務を課すのではなく、あくまでリスク解消の義務の主体はLkSGが適用される企業としています。そしてリスクの解消はサプライヤーだけに任せるのではなく、協働し話し合いながら解消することを求めているため、取引契約締結後のコミュニケーションや開示も大切になってくるでしょう。