島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【フィリピン人のお給料】一方で花形職業の人たちは....

フィリピン人のお給料に関する調査は、前回の Current Labor Statistics の他には同じく統計庁から Occupational Wages Survey というものが2年に一度公表されています。最新版は2016年です。

psa.gov.phこの統計では産業別職種別の平均(または中央値の)月給が明らかにされています。前回のは手当を含まない基本日給でこっちは通常は支払われる手当込みの基本月給なので、直接的な比較は難しいのですが…。

この統計の目玉は「高賃金職種トップ10」です。

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今をときめくITエンジニアなら、ワンルームコンドミニアムに住むとかフィリピン現地採用日本人と同じような暮らしが可能なぐらいじゃないでしょうか?マニラ在住の現地採用日本人の方のブログで毎月の生活費を公表されていました。

食費:40000ペソ
交通費(タクシー、バス、ジープなど):10000ペソ
光熱費・水道費:3000ペソ
通信費:3000ペソ
家賃:15000ペソ
娯楽費:その月による

日本人だと食費が高くなりがちなので、フィリピン人ならもう少し安くできるでしょう。ちなみに筆者は夜はほぼ自炊なので食費は毎月1万ペソ強に収まっています。

angela04.com

この辺のフィリピン人が、東南アジアに勃興中のいわゆる消費意欲が旺盛な「新中間層」という層なんでしょうか?

https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/external_economy/chukan_kakutoku/pdf/report01_01.pdf

前回はフィリピン全土の世帯平均年収は26万7000ペソ(一月平均2万2000ペソ)という統計を見ましたが、一方で花形職業なら月に一人で5万ペソは稼げてしまうという、格差の大きさを垣間見られるお話でした。

【フィリピン人のお給料】最低賃金制度と平均日給(おおざっぱ!)

戦後の日本では正社員で働いていれば「電産型賃金体系」がベースになった、すなわち従業員が生活できるだけのお給料を支払いましょう、という会社ばかりでした。しかしフィリピンではこのような考え方は定着しておらず、生活できるだけのお給料が支払われていないように思われますが、どうなっているのでしょうか?

まず日本の賃金制度には、時給制、日給制、日給月給制、月給制があり、最近は年俸制の企業も増えてきているようです。フィリピンでは正社員でも基本的に「日給制」であり、法定最低賃金も日額で決められています。

また年に4回統計庁から Current Labor Statistics という名称で公表される統計に、フィリピンの賃金データは載っています。ここには平均世帯年収もあります。

www.psa.gov.phでは最低日給と平均日給を同時に見てみます。 単位はペソです。最低賃金は地域別なのですが、便宜上、首都圏と筆者のいる中部ビサヤ地域を抜き出してみます。また2018年の平均賃金はまだ公表されていないので、唯一公表されている1月のものを載せます。

  2016年 2017年 2018年1月
全国平均基本日給 400.95 418.00 427.76
マニラ首都圏平均基本日給 561.74 581.58 575.18
中部ビサヤ地方平均基本日給 351.20 364.71 381.74
      2016年     2017年     2018年
マニラ首都圏非農業最賃 481.00 491.00 512.00
中部ビサヤ地方セブ市非農業最賃 353.00 366.00 386.00

日本では最低賃金はアルバイトなど非正規労働者の賃金決定の目安に使われますが、フィリピンでは最低賃金+αが賃金額なので、最低賃金が全労働者の賃金額に影響を与えているようです。

(※Current Labor Statisticsによれば、平均基本日給とは残業代や諸手当、ボーナスを含まず社会保険料や税金の天引き前の金額とのこと。)

前述の平均世帯年収ですが最新の統計でも2015年なので(古いよ!)、参考として記述しますと、全国平均が26万7000ペソ、マニラ首都圏平均が42万5000ペソ、中部ビサヤ地域が23万9000ペソです。

単純に中部ビサヤ地方セブ市で月20日出勤と考えると、大人が一人働くと353ペソ×20日×13か月分(12か月分と法定の1か月分ボーナス)=9万1780ペソ。父母とも働くと年に18万3560ペソでその他に何かしらの収入(同居のおばあちゃんの小商いとか)があって、23万ペソにやっと届くかな、という感じでしょうか?

それにしても、これなら月給7000ペソちょっと(1万5000円強)、世帯年収52万円弱ですからね。フィリピンの人件費は安すぎるんじゃないかな?ひと月に直すと世帯月収2万ペソ弱かあ…。貧困判断基準の1万400ペソよりいくらか上だけど、家族みんなで働いてぎりぎり生活できて、たまにジョリビー行ってクリスマスにご馳走食べるぐらいが関の山?

2年前の2016年に書かれたブログ記事ですが、庶民のお給料と生活ぶりは、

なんと これだけミニマムな生活をしても
修行僧のような暮らしに甘んじても
仮に給料が8,000ペソだと 1,000ペソ程度しか余りません 

これが現実です 

これが フィリピン人が大家族で暮らす理由の一つです

 と表現されていますので、筆者の計算もあながち予想外れではなさそうです。

cebuapprentice.com

 

 

【フィリピン労使関係】貧困が蔓延、でもストライキは少ない?

ところで実際に貧困状態の国民がどれだけいるかは定かではないものの、フィリピン中に貧困が蔓延しているということ自体は否定できません。そうすると「資本主義社会なんだから低賃金や多数の貧しい国民に怒った労働組合ストライキを連発したらいいんじゃないの?実際に日本の戦後もストライキは多かったわけだし」という考えに至ります。

 <戦後日本の争議件数>

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JILPTウェブサイトより https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/img/g0702_011.png

日本では今でこそストライキの件数は減少していますが、かつてはストライキが多発していました。「春闘」が開始されたのは1955年とされていて、春の労働条件交渉の「切り札」として労働組合ストライキを使っていました。

日本の厚労省「海外情勢報告」では主要国の労働法と社会保障法の概要と直近の情勢が毎年紹介されています。以下はフィリピンについての最新の記述です。

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/19/dl/t5-07.pdf

この報告ではフィリピンの労使関係を、

ずれの理由から発生する労使紛争であっても、労使紛争の結果ストライキ等の争議行為に発展することはほとんどない。

 そして、1987年制定の現行憲法では第Ⅷ部第3条で

労使間の自主的解決を基本理念とし、様々な労使または政労使の対話の場を国が整備し、国は争議行為や裁判となる前に解決すべく裁判外紛争解決制度の充実に力を入れている。

 と説明しています(以上同報告書の343ページ)。しかし労使関係(例えば敵対的~協調的など)のあり方はその国の賃金・労働市場や政治情勢を理解する上で重要なファクターになるので、フィリピン労使関係がどのような経緯でここに至ったかを概観していきましょう。

1965年から大統領を務めていたF.マルコスは1986年2月のエドゥサ革命によりその職を追われ、C.アキノが後任の大統領に就任しました。マルコス時代は戒厳令により人々の自由は奪われていましたので、アキノ大統領になり労働運動も盛り上がりを見せるかと思われましたが、1987年に労働省令(Department Order(DO))007-87が公布されます。

DO007-87では第3条で「ノーストライキ/ノーロックアウト条項」をすべての労働協約に導入するよう義務付けました。同時に第5条では、苦情や紛争の処理は労使委員会やあっせん、仲裁により解決することも義務付けました。

日本の戦後のストライキ件数が、経済や労使関係の成熟を背景に減少していったと考えられる一方で、フィリピンにおいては人工的に、もっといえば強制的にストライキの少ない情勢が作り上げられた、と推察できるでしょう。

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フィリピン統計局”2018 The Compilation of Industry Statistics on Labor and Employment (CISLE)” 14-9ページより https://psa.gov.ph/sites/default/files/2018%20CISLE%20Final.pdf

赤で囲った部分が実際にストライキに至った件数であり、2015年は5件、16年は15件、17年は9件です。日本では2017年の半日以上のストが38件、半日未満のストが46件ですから(厚労省「平成29年度労働争議統計調査」)、日本よりずっと少ないということになります。

仮に労働組合が会社側と上手く交渉してそれなりの労働協約を締結できていたとしても、企業外への労働協約の拡張適用制度がない場合には組織率が低ければ波及効果は期待できません。ということで、また統計を見てみると、2016年で官民合わせた組織率が6.5%、協約カバー率が7.2%と、どうやらフィリピンの労働組合活動は低調なようです。

 

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フィリピン統計庁Labstat Vol. 21No.17 から抜粋

 

【世銀報告】フィリピン海外出稼ぎ労働者(Overseas Filipino Workers: OFW)の母国送金

世界銀行は、この4月8日に「移民と発展に関する報告書(Migration and Development Brief)」の第31号を公表しました。

Migration and Development Brief 31 | KNOMAD

これは母国の外で働く移民と母国への送金の全世界的な動向に関する報告書であり、低~中所得の発展途上国からの国外出稼ぎ労働者が母国に送金した額は2018年に過去最高になったと述べています。母国への送金額が多い国は、一位がインド(790億ドル)、二位が中国(670億ドル)、三位がメキシコ(360億ドル)、四位がフィリピン(340億ドル)、五位がエジプト(290億ドル)でした。

 

〇この報告書のフィリピンに関する部分

フィリピンは2017年は世界で3番目に母国への送金額が多かった国だったのですが、主要な出稼ぎ先の一つであったクウェートでフィリピン人労働者が使用者に虐待され死亡した事件があったことから、2018年1月にフィリピン政府は同国への派遣を一時停止する措置をとりました。4か月後の5月にこの措置は全面的に解除になったとはいえ、この間の送金額落ち込みが影響したとのことです。

〇この報告書の日本とフィリピンに関する部分

日本はこの4月から新しく「特定技能」の就労ビザが開始されており「特定技能1号」では日本語試験の合格が必要とされています(2号は日本語試験不要)。この1号ビザのための日本語試験は、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマーカンボジア、ネパール、モンゴルの9か国で実施されることから、報告書はこの9か国からの労働者流入の増加を予想しています。日本とフィリピンは3月に覚書に署名しており、これによりフィリピン政府は "is seeking to capitalize on the new demand, particularly for skilled workers, and anticipates filling nearly 100,000 of the possible positions" ということで、日本での出稼ぎに大いに期待しています。

 

さて、世界銀行発展途上国の人の先進国への移民を世界の貧国撲滅につながると評価しています。

国際的な人の移動が世界の貧困撲滅に貢献―世界銀行新報告書

これはフィリピンにも当てはまるのか、次回考えてみたいと思います。

 

 

 

 

フィリピン人の「肌感覚」の「貧困」判断

フィリピン統計庁は一家5人の毎月の収入により貧困か否かを全国一律で機械的に判断しているということを書きました。

shimaguniph.hatenablog.com

こういった客観的な数字によるのとは反対に人間の「肌感覚」により判断するという考え方もあります。また基準以下をすべて貧困とするのとは反対に、社会の中で位置する自分のレベルにより貧困か否かを判断するという考え方もあります。

フィリピンの民間調査機関であるSocial Weather Stationが2018年12月に実施した調査によると、2018年の第4四半期に「自分たちは貧困だ(Self-Rated Poverty)」と感じる世帯は50%にも上っていたそうです。

Social Weather Stations | Fourth Quarter 2018 Social Weather Survey: Self-Rated Poverty subsides to 50% after rising by 10 from Q1 to Q3

この調査の方法は、調査対象者に面接し「貧困」「普通」「貧困ではない」と書かれたカードを見せて「あなたの世帯はこの3枚のうちどれに該当しますか?」と質問し、カードを選ばせるというもの。つまり、肌感覚かつ自分の世間のレベルという相対的な判断をしてもらっています。

これは長年続けられた調査であり、各年の「貧困」と回答した率がまとまっているので抜粋します。

https://www.sws.org.ph/visuals/2018/pr20190111/pr20190111_vis02.JPG

1986年まではマルコスが大統領を務めていましたね。そして2004年以降、貧困と感じる世帯割合に大きな変化はありません。