島国時々更新日記

日本ではない南の島国で知ったことを書いていきます

【ドイツ】IG Metall(金属産業労組)の対応方針

ドイツの産業別労働協約改定交渉は2年に1度行われ、今年2020年は改定年度です。ということで、年明け以降、賃金その他労働条件や産業政策についての労使の意見が活発に表明されています。

デジタル化などの技術革新と働く人々の問題に対して、ドイツ政府としては再度の職業訓練を施すことで対応する姿勢を見せていますが、政労使三者のうちの労働組合はどのように考えているのか、現在の技術革新によりもっとも影響を受けている金属・電機部門のIG Metallの労使交渉対応方針を見ていきます。

https://www.igmetall.de/service/publikationen-und-studien/metallzeitung/metallzeitung-ausgabe-maerz-2020/jetzt-zukunft-sichern

IG Metallは今回の交渉では「公平な変化のための将来協定(Zukunftspaket für einen fairen Wandel)」とする方針を掲げています。

 

現状認識は、「金属・電機部門はリストラが進んでいるが、特に影響を受けているのは自動車産業である。しかしこの機会に乗じて利益のためにリストラを行う企業も多い」と雇用の不安定化が生じていると批判的です。そのため、従業員の現在そして将来の安定を求める方針を打ち出しました。

 

個別の具体的な内容としては、

● Arbeitsplätze sichern – kürzer arbeiten(就労場所の確保ー操業短縮)

 今回の交渉対応方針の中心。仕事が減った職場は人員整理ではなく、操業短縮(いわゆるワークシェアリング)を導入して労働時間が減った分は政府からの補助金で賃金補填する方法を採用せよ、とのこと。

● Investitionen und Qualifizierung sichern(投資と職業資格の確保)

 デジタル&エコロジーな未来のために、企業は投資を行い従業員の職業訓練に協力し、政府は時短勤務の期間を延長せよ、とのこと。

● Kaufkraft stärken(購買力の強化)

 賃上げは購買力強化のために必要、とのこと。その他日本人には興味深く見えるのは、エコな福利厚生の導入の要求。例えば、電気自動車の充電スタンドの設置やEバイクのレンタルなどを協約化することです。

● Angleichung der Arbeitszeit im Osten旧東ドイツ地域の労働時間の是正)

 旧西ドイツ地域は週35時間労働ですが旧東ドイツ地域は週38時間も働いているので、旧東も35時間にするように、とのこと。

 

IG Metallの労働協約は次の4月28日で平和義務の期間が終了するので、労使ともそれまでに交渉を決着させたいでしょう。

製造業、特に自動車産業は日独ともに売り上げの減少や技術革新と効率化等によるリストラに悩まされています。ドイツ流の解決策で結果が出せるのか、要注目です。

【ドイツ】技術の革新による変化と働く人たち、雇用

デジタル化、自動化などの技術の革新により、日本企業のみならず世界中の企業がビジネスや仕事のやり方の大変革を迫られていると言われている今日この頃。例えば電通の「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)」によると、デジタルトランスフォーメーションにすでに着手している企業は70%だそうで、この先訪れる変化から逃れられないと各企業は戦々恐々としている様子がうかがえます。

技術の革新とは働く人たちにとっては自分たちの業務の効率化であって、そうすると思い出されるのが19世紀初頭にイギリスで発生した「ラッダイト運動」なのですが、現代の働く人たちは「効率化したら仕事が奪われる」と機械をぶち壊すわけにもいきませんので、どうにかこうにか生き延びていくしかありません。

 

かかる問題に対してドイツにおいては、連邦労働大臣のH. Heil氏(SPD)が昨年2019年から具体的な対応策を求めて動き始め、6月に政労使三者で「国家継続訓練戦略」を採択しました。詳細は下記に譲ります。

 

この流れの中で連邦労働省は「明日の労働法(Arbeit-von-morgen-Gesetz)」を提案しました。この法律案は3月4日(水)に閣議決定されたので、これから国会で審議が進むことでしょう。法案の概説はこのようになっています。

https://www.bmas.de/DE/Service/Gesetze/arbeit-von-morgen-gesetz.html 

Mit dem Gesetz sollen die Förderinstrumente der Arbeitsmarktpolitik weiterentwickelt werden, um die Menschen in Deutschland rechtzeitig auf die Arbeit von morgen vorbereiten zu können. Angesichts der Erkenntnis, dass in lebensbegleitendem Lernen und Weiterbildung der Schlüssel zum Erhalt der Beschäftigungsfähigkeit im Strukturwandel liegt, sollen besonders die Möglichkeiten von Weiterbildung und Qualifizierung in besonderen Situationen weiter gestärkt werden.

(この法律によって、ドイツ国内の人々が適時に明日の労働に備えられるように、労働市場政策の促進手段はさらに発展されるべきものである。この理解、すなわち構造変化におけるエンプロイアビリティの保持のカギは生涯に渡る学習と継続訓練にあるということに鑑みると、特に、特別な状況下での継続訓練と資格取得のさらなる強化がなされるべきものである。)

 

 

すなわち、ドイツお得意の職業訓練制度を用いて、学習や教育訓練により技術革新があっても引き続き何らかの形で仕事を得られるようにしていくという方向性です。具体的なスキームは、これまたドイツお得意の操業短縮(いわゆるワークシェアリング)&その補助金を活用して従業員の教育訓練のための時間とお金を作るとのこと。

 

コロナウイルス感染拡大でドイツ国内はかなり混乱しているので、この法案審議は後回しにされてしまうと思います。しかしproblem-mindedな日本人にとってはsolution-mindedなドイツ人が技術革新と雇用の問題にどのようにタックルするのかは興味深いため、今後の状況を見守りたいと思います。

フィリピンの労働者の権利の保護のレベル

国際労働組合総連合(英語:International Trade Union Confederation、略称:ITUC)は毎年 "ITUC Global Rights Index" という報告書を公表しています。この報告書は、国際的に認められている労働者の権利が政府や使用者からどれだけ侵害されているかについてまとめています。権利侵害の深刻さを数値化しており、特に「最悪の権利侵害国トップ10」との目を引くまとめ方により分かりやすく示されています。

フィリピンは昨年2018年の報告書では「最悪の権利侵害国トップ10」に選ばれてしまいました。

そして今年の報告書でも、引き続き調査国145か国の中で「最悪の権利侵害国トップ10」に選ばれています。今年の報告書はこちら。

https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/2019-06-ituc-global-rights-index-2019-report-en-2.pdf

この報告書の25ページがフィリピンの状況についての報告になっています。問題点は「暴力と殺人、公の抗議活動に対する過酷な抑圧、抑圧的な法律」という3点を指摘しており、具体例としては昨年2018年10月にネグロス島の砂糖農場で農地解放を求めて農地を占拠していた砂糖業労働者組合の活動家9人が射殺された事件を挙げています。

これがその事件の詳細です。

このITUCのフィリピン批判に対してフィリピン労働雇用省(DOLE)は7月5日に、「ドゥテルテ政権下でフィリピンの労働者はこれまで以上に労働法上の権利を享受している」「報告書で言及された事件は労働問題が関連していない」と公式に反論しました。

 

私見では、ITUC(ヨーロッパ的労働組合観が主流?)の考える労働組合の活動領域(労働条件以外でも労働者の暮らしに関することには労働組合が介入する)とDOLEの考える労働組合の活動領域(労働組合は労働条件に関することに対してのみ活動)が違っているので、このような反論が出てきたのではないかな、と思います。

法的な意味での労働組合の活動領域、すなわち団交の対象事項、ということの他に、企業内労使関係や社会的な意味での労働組合の発言や活動領域にも目配りすると、ILOやITUCのこの手の報告書の言いたいことが理解できるのではないかという気がします。

ちなみにドイツが6段階評価で最良の「1」、日本やフランスはその次の「2」なんですが、なぜこの評価になったのかの理由が明示されていないのですっきりしない報告書の作りではあります(なのでDOLEが不満に思って反論するのも仕方ない面もある)。

 

【追記】

スミフルの件についてはITUC報告書の14ページに下記の記載あり(上述の砂糖業での事件と本件の2件について報告書は取り上げています)。

> On 31 October, Danny Boy Bautista, a 31-year-old harvester and active NAMASUFA  member, was shot four times by an unidentified gunman during strike action at Sumifru, a Japanese fruit exporting company.

トラブル時にヒットマンが登場するのはフィリピンのよくあるパターンですが、交渉ではなく実力行使を日本企業が関係する案件で選択することはやめてもらいたいものです。

【参考/フィリピン】新しくかつピンポイントの治安・安全情報

日本人が海外に出かけるときは、外務省の海外安全ホームページで滞在先の情報を確認することが推奨されています。筆者の住んでいるフィリピンの安全情報は下記に掲載されています。

www.anzen.mofa.go.jp

で、大切なのは「安全の手引き」(PDFが開きます)のところなんですけど、この情報は今のものはたまたま今年の2月の更新なので新しいのですが、更新回数が少ないので若干古い情報になりがちなんですね。しかし在フィリピン日本大使館のウェブサイトには、2か月ごとに更新される安全情報が載っています。現在の最新版は2018年10月~12月分です。

www.ph.emb-japan.go.jp

また、多くの日本人が訪れるセブ島ピンポイントの情報もありますので、ぜひご覧ください。

犯罪の発生件数は警察に届けられたものです。届けられていない事件もたくさんあるはずなので、ご安全に!筆者はリュックのポケットにスマホを入れてショッピングモールに行ったら、ポケットのファスナーが開けられてスマホを掏られたことがあります。めんどうなので警察には届けませんでした。

 

 

 

 

 

Q)海外就職した人たちのお給料などの労働条件の概要は分かるか?

A)分かりません、人それぞれです。ただしあまり労働条件はよくない模様。

 

近年「グローバル人材」という、意味があいまいでよく分からない言葉が多用されています。文部科学省審議会用資料では一応「語学力のみならず、相互理解や価値創造力、社会貢献意識など、様々な要素」を身につけている人材とされています。でも、日本人は遣隋使として留学したり唐から高僧を受け入れたりオランダ語医学書を翻訳したり、開国後はお雇い外国人に様々なことを学んだりと、相当昔から文科省が説明している素養は身につけているので、新たに「日本人にはあれやこれが不足している、ダメだ!」という否定的論調を展開しなくてもいいと思うんですけどね。

さて、グローバル人材なるものが育って何をするのかというと、国内では外国人と仕事などでお付き合いし、国外では国際機関や日系企業の海外支社で働いたりということでしょう。「海外就職」なるものが強力にプッシュされているようです。

日本人が「海外で働く」場合には主に、①日本国内の企業と雇用契約を結んで海外支社に派遣される「駐在員」と、②日本国外の企業と雇用契約を結んでその地で働く「現地採用」があります。駐在員の雇用主は日本国内の企業、現地採用になると雇用主はその土地の企業です。

「駐在員」に関しては、「海外駐在員給与・処遇制度および運用実態に関する調査」(2011年、Mercer Japan)や「第7回 海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査」(2008年、労働政策研究研修機構)があります。

現地採用」に関しては公式な調査がないようです。ですので冒頭の回答のように「労働条件の概要は不明」という回答になります。

 

<フィリピンの現地採用のだいたいの感じ>

筆者が働くフィリピンに関していえば、実際に統計を取って公式な数字ではないものの、法務省の『平成28年度調査研究(フィリピン)』の57ページ脚注120には

f:id:shimaguniPH:20190422163031p:plain

と書かれています。平成28年度(2016年年度)の調査ですから、2015年ぐらいの数字でしょうね。

また別の人が2018年にした計算では、全職種を平均すると「83,800ペソ=約17万5000円(※1ペソ=約2円)」となっています。これは求人広告の給与欄の最低月給の平均ですので、8万3800ペソスタートでここから次第に昇給ということになります。

あいにく、福利厚生については調べられておらず、会社ごとに求人票の書き方も異なっているのでよく分かりません。しかし筆者の聞く限りでは、会社が家賃全額または大部分を負担してくれる社宅が用意されていることが多いですし、年に一度会社費用で日本に一時帰国させてくれるところも多いようです。

日本の大卒新入社員の初任給平均が20万円と少しなのを考えると、だいぶお給料は安いものの、筆者のように切り詰めて食費その他を2万ペソ以内に収めていれば毎月13万円ほど貯金が可能、ということになるでしょうか?

と、このように考えればけっこうお金は貯まるような気もしますが、フィリピンでもマニラよりお給料の安いセブなら、実際には

しかし、問題はどの業種でも月給が良くて月60,000ペソ(120,000円)程度しかなく、多くは月に50,000ペソ(100,000円)以下が当たり前ということですね。

 (中略)

ただし、セブで仕事をするホトンドの人が1年経たずに今後の生活に不安を持って、セブ生活を諦めてしまいますね。

 

私の経験上で言えば、現地採用されたとしても1年持つ人は10人に1人もいません。

 

同じ職場で3年以上などになると間違い無くそれだけで古株です。

との声もあり(2018年の記事)、日本の国内の企業のように「従業員を長期で定着させる」という方針ではない会社が多いのかもしれません。

 

結論としては、

 〇現地採用組についてはその地域の労働条件の相場は明らかになっていない(だから人材紹介会社によく聞こう!求人サイトで比較しよう!うっかりお給料の安い会社に就職しないように!)、

 〇とはいえお給料は安いのははっきりしている(特にペソのように弱い通貨だと円換算するとガッカリ)、

 〇長期勤続が期待されていない(面接時にその会社の勤続年数の傾向を聞こう!)

ということになるでしょう。自分の長期的なキャリアの一部分に現地採用での海外就職を組み込んでいくという明確な戦略があって海外就職する人以外は、安易に海外就職することは避けるべきではないか、というのが筆者の見解です。

ちなみに営利活動ではありませんが、青年海外協力隊で1~2年日本でのキャリアを中断した人には、下記のような支援が準備されています。ということはおそらく、海外に出ていくということはキャリアの中断につながる可能性もなきにしもあらず(だから再就職支援が必要)という意味なのだと思います。

www.jica.go.jp

海外就職にはまずキャリアの戦略の策定から!

(※あくまで筆者の個人的な考えです。)

 

<2020.3.10追記>

> 東南アジアは物価が安いというのは最早昔のことで、今はそうではないというのが現実だ。

バンコクの例ですが、東南アジア就職でよくある「物価が安いですよ(だからお給料が安くても大丈夫、暮らせます)」という売り文句はあまり当てはまらないかもね、という意味で掲載します。でも人件費は安いのでその分は確実に日本よりも物価は低くなります。